2. 満たされぬ夜の秘めごと

2024/07/21
ピンク式部
ピンク式部
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満たされぬ夜の秘めごと

 脱衣所で下着を脱ぎ、バスルームの中に入ると、ナツは慎重にドアのロックをかけた。欲求不満はすでに抑えられないものとなっていた。

 ユウトとの情事後の定番と化した、秘めやかな行為は、シャワーの水量を上げることから始まる。タイルに叩きつける水滴の音が、部屋中にこだまする。この音なら、自分の行為を隠せるだろう。

 湯気に包まれ、水音に守られながら、ナツは再び鏡に向き直る。そこに映る自身の姿に、彼女の欲望は再び燃え上がった。

 ナツは両手で自身の胸の豊満な丘を包み込むように愛撫した。柔らかな感触と共に、火照りの残った体にじわじわと甘美な快感が戻ってくる。

「はぁ…」

 小さな吐息が漏れた。丘の頂上に色づく桃色の実は既に固く尖っており、触れられるのを待ちわびているかのように小刻みに震えていた。指で軽く転がすだけで、蜜蜂の羽音のような快感が全身を駆け巡る。

「ん…っ」

 声を押し殺しながら、ナツは乳首への愛撫を続けた。左右の乳首を交互に摘み、引っ張り、花びらを描くように撫でる。その度に、春の陽気のような心地よさが全身を包み込む。

 しかし、それだけでは物足りない。彼女の右手は、ゆっくりと下腹部へと移動していった。

 その下に覗く秘めやかな花園は、すでに興奮で改めて湿り気を帯び、微かに開いた花びらのように艶めかしい姿を晒していた。花びらに指先が触れた瞬間、春の嵐のような快感が走った。

「んっ…!」

 声を押し殺しながら、ナツは愛液に濡れた秘所を優しく撫で回した。クリトリスに触れると、強烈な刺激が全身を貫く。

「あぁ…」

 小さな喘ぎ声が漏れる。ナツは片手で唇を押さえながら、もう片方の手で自身の花園を慈しむように愛撫し続けた。指先で外側の花びらを優しく開き、中指で花蜜の溢れる花芯から、真珠のような小さな蕾まで愛液を這わせる。

「う…んっ…」

 その小さな蕾に触れた瞬間、強烈な快感が全身を貫いた。ナツは花びらを描くように、ゆっくりとその蕾を撫で回す。徐々にリズムを速めていく。花芯から溢れる蜜を使って、蕾を磨く動きがよりなめらかになっていく。

「はぁ…はぁ…」

 呼吸が荒くなり、鏡に映るナツの姿は、快感の波に揺れる水面のように歪んでいた。頬は桜色に染まり、瞳は潤んでいる。唇を噛みしめ、声を押し殺そうとするものの、小さな喘ぎ声が漏れ続けていた。

「あぁっ…」

 突如、中指を花芯に挿入すると、温かく濡れた花蜜が指を包み込んだ。ナツは指を動かし始め、親指で蕾を刺激しながら、中指で花芯を掻き回す。花芯が記憶している、ユウトの肉棒のイメージが蘇える。この体を頂きに連れていってくれた、かつての熱い夜のものだ。

「はぁ…はぁ…あぁっ…」

 ナツは、自身の中で高まりつつある快感の波を感じ取っていた。それは、ユウトとの先ほどの情事では味わえなかった波だった。

 (もう…だめ…!)

 快感の波が押し寄せてくる。花芯を掻き回す指と、蕾を磨く指が同調し、ナツの体を激しい快楽の渦に巻き込んでいった。

「んっ…! あぁっ…!」

 ついに、ナツの体は限界を迎えた。強烈な快感が全身を貫き、彼女の意識は一瞬、満開の桜に包まれたかのように真っ白になる。花芯が痙攣し、蜜が指の周りに溢れ出した。

密かな後悔のタネ

「はぁ…はぁ…」

 絶頂の余韻に浸りながら、ナツはゆっくりと目を開けた。鏡に映る自分の姿が、まるで幻想的な絵画のように感じられた。

 ナツは、風呂場の大きな鏡に映る自分の姿をじっと見つめた。

 額に張り付く髪、紅潮した頬、半開きの虚ろな眼、少し開いた唇。どちらかというと地味な方に属するその顔立ちからは、現実に対する倦怠が隠しきれていなかった。いっぽう、頂きを迎えたばかりの火照った体は、年齢の割にしなやかな若々しさを保っていた。

 余念なく維持している、真っ白で滑らかな肌。首筋から鎖骨にかけての、うっすらと血管が浮かぶ繊細なライン。Dカップの、重力に逆らい上向きに整った胸。細い腰のくびれと、そこから滑らかに広がる曲線的なヒップライン。恥丘は整えられており、そこに生える艶やかな黒髪が、ナツの体の清楚な印象をさらに引き立てている。

 その一つ一つが、ナツの日々の努力の証であり、同時に密かな自慢だった。自慢の矛先を見つけようもないその体は、30歳の大台が近づき、乗り越えるにつれて、日々、新しい刺激を求めて色づいてきていた。

(このまま、ユウトとのエッチしか知らずに終わってしまうのかな…)

 学生時代に恋愛に対して比較的臆病だったナツは、それでも一人と付き合ったことがある。しかし、一人目の彼との肉体関係は、快感を覚える間もないような儚い数回に終わった。その後、社会人になってすぐに付き合い始めたのがユウトだ。女としての悦びを教えてくれたのも、ユウトが最初で最後だった。

 火遊びの術も知ることなく、過去に2人しか経験していないことは、今になってナツの密かな後悔のタネになっていた。

 ナツは小さくため息をつき、シャワーを浴びて体を清めた。冷めやらぬ快感が体に残っていたが、心の奥底では寂寥感が広がっていた。

小さなアクシデント

 パジャマに身を包み、風呂場から戻る。暗がりのなか、水を飲もうとリビングからキッチンに入ろうとしたとき、なにかが手に触れ、そのままリビングのテーブルから滑り落ちた。

「コトンッ」

 思いのほか大きな音に、ユウトのiPhoneだと気づき、心臓が跳ね上がる。慌てて拾い上げるとともに、リビングのライトを付けて異常がないかを確認する。良かった。スマートフォンカバーのおかげもあって、割れたり傷ついたりしてはいないようだ。

 リビングにユウトのiPhoneが置かれたままなのは珍しいと、ナツはふと思った。ここ最近、充電の持ちが悪いと、ユウトがiPhoneの充電器を自分の部屋に移動したのだ。

 気を利かせて、iPhoneをユウトの部屋の充電器に挿した刹那、光を取り戻した画面上に表示される、複数の通知アイコンがナツの目に入った。画面を覗くのはユウトとの暗黙のルールを破る気がして、とっさに目を背ける。

 寝室に戻ると、既にユウトは安らかな寝息を立てていた。その横に滑り込み、目をつむる。快感の余韻が体の中で重たく残り、眠気へと変わりつつあった。